親への怒りを直接ぶつけるのはやめましょう。
親が反省してくれるのを期待することで、傷つく結果になることが多いからです。
最大の復讐は、あなたが幸せになることです。親に怒りをぶつけるよりも、今のあなたを大切にしてほしいです。
親に怒りをぶつけると、どうなるか?
「親が私にやったことは、ひどいことだったのではないか?」
このように過去の親子関係のありかたが明らかになるにつれて、親に対する怒りが止まらなくなることがあります。
親にされたことを思い出しては、憎しみや怒り、憤怒がわいてくるのです。こういう場合、どうすればいいのでしょうか?
よく言われるのは「親と対決する」というものがあります。しかし私はそういうやり方をお薦めしません。
私の相談者にも親に面と向かって怒りをぶつけた人がいます。とりわけ親から虐待されたり、大切に育てられなかった、コントロールされた過去を持つ場合、怒りを直接ぶつけたい気持ちになることは理解できます。
しかしながら、そうした対応を私の経験上、お薦めできません。かえって親から傷つけられる可能性があるからです。
ある45歳の女性のケースです。その方は、漠然とした不安をいつも感じていました。
いつも憂鬱で、悲しくって、空しくて、そのせいで生きるのが辛かったのです。
恋愛をして恋人がそばにいても、孤独だったのです。仕事で成果をだしても、まったく心が満たされませんでした。
休みの日も家の中で過ごすことが多く、たまに繁華街に出てみても、楽しむことができなかったのです。
友達ができても、自分が言いたいことを我慢してしまうので、人間関係で充実した気持ちにはなれなかったのです。
何をやっても楽しくなく、頑張ってみても報われない気持ちでいっぱいになるので、そんな自分を好きになれず「私はなんてダメだんだ」と自己嫌悪に落ちてしまうのでした。
そうしたなかで自分は親に大切にされなかったことに最近、気づいたのです。
彼女が幼かった頃、母親はこんなことを言ったそうです。「あんたじゃなくて、この子を娘にしたかった」
あなたではなくて、親戚の女の子を娘にしたいという母親の言葉に「そんなこと言わないで」と泣いて訴えたのに、「いや、私はあんたみたいな娘はいらない」と言い続けたのです。
彼女は、大人になってもその母親の言葉に傷ついていました。
彼女の両親は不仲で、毎日喧嘩をしていました。父親が母親に殴りかかり、「お父さんにかかっていきなさい」と母親は娘に命じるのでした。
このように親の喧嘩にまきこまれていた彼女は、家の中にいてもいつも緊張をしていました。
そうした家庭環境を生き抜いた彼女は「こんな育て方はひどいのではないか」と大人になってから気づくようになりました。
さらに気づいたのは、大人になってからの生きづらさの原因は親子関係にあるのではないかということです。
生きづらさの問題の根本が幼いころの経験にあると気づいた彼女は、両親に理解を求めたのです。しかしその結果は、とっても後味の悪いものでした。
「なぜ私じゃなくて、あの子を娘にしたかったなんて言ったの?」と、母親に聞くと「そんなこと覚えていない」とけろっと返事されたのです。
「言ったじゃない。何度も言ったでしょ? ひどいことを言ったくせに覚えていないなんて!」と彼女は母親に怒りをぶつました。
すると「親に向かってなにを言うんだ!」と気持ちを逆なでされることを言われたのです。
「そんなひどいことを言ったくせに、親のつもりでいるのか」と、母親に対して彼女は怒りが止まらなくなりました。
次にどうして喧嘩のときに「お父さんにかかっていきなさいなんて言ったのか?」と問い詰めると、「あなたに、しっかりして欲しかったのよ」と母親は言うのでした。
喧嘩に巻き込んでおきながら「しっかりしてほしかった」という訳の分からない弁解に、彼女のこころは掻きむしられるような気持ちになりました。
悔しさ、むかつき、そして憤怒の念に、しばらく彼女は苦しんだのです。
つまり母親に怒りをぶつけたことで、心の傷つきはかえって蒸し返されたのです。
こんどは父親に「どうして、喧嘩ばかりしていたの」と彼女は電話で伝えました。すると「どこのウチでもそうだ」「もう忘れろ」と返事したのです。
そうした理解を示さない父親に、またしても憤りを彼女は感じたのです。
その後、ふたりの親に連絡をすることをやめたのでした。
どうしても親に直接怒りをぶつけたい人を私は止めません。
しかし親に怒りをぶつけることで、後味の悪い気持ちに苦しみ、かえって親への憎しみを深めてしまった事例は少なくないことを知ってほしいのです。
「自分が悪かった」と親が反省する姿を期待すると、傷ついてしまうことになりかねません。
たいていの親は自分の子育ての過ちを認めたがりません。なぜなら親という立場を守りたいからです。
子どもに謝罪をすることは自分の存在基盤を否定するように感じられるので、親は絶対に子どもに謝りません。
なので親は、娘・息子からの批判を巧みにかわすのです。
親が過去の過ちを冷静に振り返ったり、子どもの怒りを受け止められる器を持っているとは限らないのです。
子どもから怒りをぶつけられても自己弁護に終始するか、「もうすんだことだろ」「覚えていない」という返事しかできない場合は少なくありません。
では、親への怒りをどのように対処すればいいのでしょうか。
親への怒りが止まらないならば
親への怒りをどう対処すればいいでしょうか?
それは今、あなたが幸せになることです。
あなたが幸せに生きることが、最大の復讐となるからです。
もし、親への怒りが止まらず、頭の中が憤怒の念でいっぱいならば「自分は、自分自身の幸せのために時間を使っているだろうか?」と、ふと我に返ることはとっても大切です。
過去の親子関係における記憶を思い出して、怒りを感じるということは、意識が過去に向いているわけです。
もちろんそれだけ親はあなたにひどいことをしたのです。だから過去の記憶を忘れられないわけです。
私自身、過去のひどい出来事を思い出して、親への憎しみに苦しんできました。過去なんて忘れられるものではありません。
怒りの感情は、なかなか消せるものではないでしょう。
ただ怒りの感情から離れることはできます。「最近、怒りに振り回されなくなった」と、ふと気づくことは可能です。
そのために、今の幸せのために時間を使いませんか?
親への怒りが頭の中で満たされていたら、たとえ友達と一緒にいても楽しめません。
それでは時間がもったいないのではないでしょうか。
親のことをずっと考えていると、親がこの世からいなくなっても、親への憎しみを引きずってしまいかねません。
親のことをずっと考える時間があるほど、人生は長くはありません。
親のことではなくて、自分のこと、そして自分の周囲にいる大切な人のことを考えた方が、幸せだと思いませんか?
それでも親への怒りが止まらないならば「どうして、親への怒りを大切にしたいのか?」このことに気づくことです。
親への怒りを大切にするとは奇妙な言い方のように思えることでしょう。
しかし、いつまでも怒りを持ち続けることは、楽しみよりも怒りを優先にしているわけです。
楽しむことよりも、怒ることを選んでいるのは自分自身なのです。
もちろん、親があなたにひどいことをした事実は、怒りを覚えるに値します。
けれど今、この時間を怒ることで過ごすか、楽しむかは、自由に選択できる・・・このことをぜひとも忘れないでほしいのです。
怒ることを選ぶならば、それは怒りの感情に乗っ取られることを認めることです。
親への怒りのために時間を使うとは、過去の影響に振り回されていることを意味します。
過去の記憶を思い出して、怒りを覚える。それは「過去」「怒り」に支配されるわけです。
しかし、どうでしょう?
怒り、過去に今の大切な時間を支配されたくはないですよね。
「自分たちの過去」の傷つきを親たちは結婚生活にぶちまけたのです。その結果、子どもたちは苦しんだのです。つまり「親の過去」が家庭に影を落としたのです。
だったら、私たちこそ「過去」に現在を決めさせる生き方を拒否したい。
ためこんだ怒りを親たちは家族にぶつけたのです。そのせいで子どもたちは緊張しながら家族を生き抜いたのです。
だったら、怒りに振り回されることにノーといいたい。
「過去の記憶」「怒り」にまかせて、今の大切な時間を消費したくはないですよね。
つまり親のように生きたくないですよね。
今さらながら気づくことがあります。
過去の記憶に振り回されながら貯めこんだ怒りを家庭にまき散らしたのが親だったということに。
すなわち、親のように生きたくなければ「過去」「怒り」に支配されたくはないですよね。
「過去の記憶」「怒り」によって今の自分の気持ちが蹂躙されていることに気づいて「あれ? 自分は今を幸せに生きようとしているのか? 愉しんでいるか?」と我に返ることは、とっても大切なことだと思いませんか?
幸せになりましょう。幸せになることが最大の復讐だから。そして、そんなに人生の時間は長くないのだから。
米国催眠士協会認定ヒプノセラピスト
わたなべいさお
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