寂しさ、孤独あるいは心細さという感情は人間が本来的に持っている自然の感情です。
もともと人が持っている感情ですから、あなたを脅かしたりはしません。
喪失をともなう出来事を体験しても、周囲の人たちの支えのなかで、人は孤独、寂しさから回復することができます。
時間が過ぎていくうちに、「辛い体験があればこそ、今の私がある」と、人は悲しみを乗り越えます。
そしてまた、孤独や寂しさを感じることで、人は他者とつながりたいと想います。
その願望のために、関係性を長続きさせる必要があります。
そこで、人は相手を思いやる、尊重することの大切さを学びます。
ゆえに孤独や寂しさは悪い感情ではありません。健全な人間関係を維持する学びを与えてくれるからです。
しかし、人との別れにいつまでも苦しんだり、
いつも、人間関係が終りそうな予感が心によぎったり、
恋愛相手から別れを告げられることを想像したり、
深い孤立感で心が締め付けられて、
いてもたってもいられない強烈な不安感情に悩む方がおられます。
恋人など、愛情をくれる相手との別離の予感によって、自分がやるべき仕事が手につかないほど、不安に揺れ動かされるならば、それは「見捨てられ不安が強い」と言えるでしょう。
この見捨てられ不安は、人間が自然にもっている感情とは様相が違います。
なぜならば、幼少期において、親や家庭環境など外部からの働きかけで芽生えたものだからです。
幼少期の深刻な別離や見捨てられ体験は、大人になっても消えることはありません。心に傷として蓄積されるからです。
親や養育者によって見捨てられた時に、子どもは、自己否定感や恐怖、認めてもらえなかったことへに怒り、空虚感に襲われます。
しかし、このような感情を誰かに受け止めてもらうなど、吐き出すことができないと、空虚感、寂しさ、悲しさ、怒りや恨みなど否定的な感情が心のなかでためこまれるのです。
あるいは、ありのままの自分が愛されなかった体験から、安心感の欠乏を常に覚えてしまうのです。
よって、大人になってから孤独を感じたり、別離を予感すると蓄積された否定的な感情が見捨てられ不安として一気に噴き出すのです。
見捨てられ不安があなたを常に苦しめる理由は、見捨てられ体験によって芽生えた否定的な感情が放置され続けているためです。
後述しますが、心に蓄積された否定的な感情を、間違ったやり方で解消しようとすれば、悩みは悪化しますので注意が必要です。
幼少期の見捨てられ体験は、物理的・情緒的などの形態をとります。なかには成人してからでも気づきにくいタイプも存在します。詳しくはこちらのページを参考してください。
見捨てられ不安を感じるとき
次のような出来事において、子ども、あるいは大人は見捨てられ不安を感じます。
- 親に受け入れられなかった
- 親に甘えられない
- 親や大人からけなされた
- 親の離婚、死別
- 迷子になった
- 約束の時間が過ぎても親が迎えに来ない
- きょうだいが生まれた時
- いじめにあう
- 相手から距離を置かれた
- 仲間外れにあったとき
- ペットが死んでしまった
- 好きな人からひどい振られ方された
- 愛する人が他の人と親しくなる
- 友人の裏切り
- 失業や左遷があったとき
- 自分だけある情報が知られていなかった
- 自分は他の人と相いれないと悟ったとき
- 他の人が褒められたのを見た
- 社会から取り残されたと感じる
- 恋人からのメール返信が遅い
- 彼氏、彼女の態度が変わった
- 深刻な病気の告知
- 子どもの『巣立ち』
- 老い
- 配偶者の浮気
- 同期の同僚の昇進・栄転
- 仕事を失う
- 離婚
- 家族の死別、失踪、重篤な病の罹患
いかがでしょうか?
このように人生には孤立感、喪失感、深い悲しみはつきものです。
別離、状況の急変、予想外の出来事によって湧き上がる感情は悪いものではありません。
悲しみ、寂しさ、孤独感は自然な感情です。
誰もが、大切な人との別れに喪失を味わいます。
しかしながら、「あの時は辛かったけど、今はそうでもない」と不安を乗り越えられる人がいます。
けれども、「どうせ私は、これからもひとりぼっちだ」など強い見捨てられ不安に、いつまでも振り回される人がいます。
では、どうしてそうなってしまうのでしょうか?
見捨てられ不安を呼び起こす抑圧感情
悲しみ、切なさ、寂しさといった感情が誰にも理解されないと、これらを人は心に埋め込み、抑圧します。
では、抑圧された感情は消えてなくなるでしょうか?
いいえ、消えることはありません。
心の傷として「現在の人間関係」に影響を与え続けるのです。
すなわち恋愛・友人・夫婦・親子関係に見捨てられ不安という暗い影を落とすのです。
見捨てられ不安を強く感じてしまう方は、否定的な感情を心に埋め込み、抑圧しています。
感情の抑圧とは、どういうことでしょうか?
それは、「愛してほしかったのに愛されてもらえなかった」「優しくしてほしかったのに冷たくされた」と、満たされない想いを抱えることです。
または、人間には「安心したい」「安全を感じたい」「安定した環境で過ごしたい」「養育されたい」「感情を表現したい」「共感したい」「尊重されたい」といった欲求―自尊心を満たしたい願望があります。
けれど、「自尊心は満たされず、私は貶められるにちがいない」といった予期不安が解消されないまま大人になる―これも感情の抑圧をもたらします。
そこへ、大人へと成長するにつれて離別、失恋、不信……次々と悲しい出来事を経験していきます。
すると悲しみや寂しさ、怒りや空虚感などが、どんどん心に押し込まれていきます。
まるで心は風船のようにはちきれそうです。
どんどん辛い感情が心の風船にたまっていきます。
今にも風船は爆発しそうです。
そうなれば、ちょっとした出来事でも刺激になって敏感に反応してしまいます。
こうして見捨てられ不安が一気に噴き出すのです。
噴き出して表面化した不安が解消されない場合、「私は愛されない。いつか見捨てられる人間だ」といった自己認識を強める結果に至ります。
そればかりか、空虚感や孤独感、深い悲しみや、自己の尊厳をないがしろにされたことへの憤怒など、負の感情は心に蓄積され続けます。
心の奥底に埋め込まれた鬱積が、ふたたび見捨てられ不安として着火するまで時間はかかりません。
見捨てられ不安への間違った対処
見捨てられ不安への間違った対処によって、問題は根深くなります。
間違った対処とは、恋愛などの人間関係、食べ物や飲酒、あるいは激務、浪費によって過去から心にためこんだ感情を癒す行為を言います。
たとえば、彼氏や彼女を、苦しい自分を救済してくれる存在としてみなします。そして、関係をつなぎとめるために、あらゆる手段を使います。
相手に依存し、束縛し、その人の面倒をみることに強迫的までに神経を集中させるのです。
たとえ辛くて苦しい恋でも、彼氏、彼女にのめり込みます。依存することで、心に埋め込まれた感情を癒そうとするのです。
あるいは飲食で心の陰鬱をまぎらわす人もおられます。
わざと仕事で多忙になることで、心の痛みを忘れようとしたり、浪費で鬱積を晴らす人もおられます。
しかし、これらの行為では、否定的な感情の蓄積は消えません。
気分が晴れるのは、その場限りだからです。
このような間違った対処がもたらすのは、挫折感と自責の念です。
その他にも、次のような新たな苦しみがもたらされます。
恋愛への依存は、孤独を深めます。
依存の重圧に耐えられなくなった相手は、自分から距離を置こうとするからです。
連絡が途絶えるのでひとりぼっちに逆戻りします。
孤独を味わいたくないので、さらに相手にしがみつきます。そしてついに、恋愛関係は破綻に終わります。
浪費は、多額の借金をつくります。
ワーカホリック(仕事依存)は、使命感や責任感が満たされるので、恋愛依存への深まりとよく似た感覚を得ることができます。
しかし激務から抜け出せなくなると、自分を見失うことでバーンアウト(もえつき症候群)を招きます。抑うつ状態におちいるなど、健康を損ないます。
これら誤った対処で生み出された苦しみによって、抑うつ、ストレス性の障害、摂食障害、過食、飲酒への依存が強化されるので、健康が損なわれます。
愛情を与えてくれる方との関係の破綻によって「また今度も、孤独になるかも」「もう二度と同じ辛さを味わいたくない」と、予期不安がさらに高まるかもしれません。
そうなれば、強迫的な行動や考え方を強めてしまう。恋愛など人間関係への嗜癖、恋人へのしがみつきは継続します。悪循環です。
ここで注意して欲しいのは、間違った対処法では問題が根深くなるのです。
「人間関係・物質・行動」によって苦しみを克服する行為とは、自分から注意をそらすものです。
それゆえに、「自分らしさ」への回復を阻害します。問題が深まるばかりです。
やはり、蓄積された感情を専門家など信頼できる相手によって適切に対応してもらいましょう。
また、自分の人生を振り返り、人生の物語を書き換えることも必要です。
見捨てられ不安を生み出す根源と解消への取り組みのために、専門家と一緒になって解消したい方はこちらをご覧ください。
NGH米国催眠士協会認定ヒプノセラピスト
一般社団法人、
わたなべいさお
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